オートインジェクターはシンプルであるほどよい?




ドイツのインジェクターメーカHaselmeier社が新しく開発したPiccoJect™ プラットフォームを例に、デバイスのシンプルさの重要性と老舗デバイスメーカが取り組むサステナビリティついてご紹介します。



患者にとって”負担のない”ヘルスケアソリューションこそが、より効果的な慢性疾患管理には必要不可欠です。

「患者を中心としたDDS(ドラックデリバリーシステム)」を生み出すにはこの考え方は切っても切り離せません。


今回ご紹介するHaselmeier社の「 PiccoJect ™ 」は、患者”負担”の観点や、操作性はもちろんのこと、サプライチェーン全体の廃棄物削減や、環境への負荷すらも最小限に抑えている点からも、非常にシンプルに全体最適(負荷削減)を満たしている画期的なデバイスとなっています。


具体的な取り組みとして同社は、グリーン電力への投資や持続可能な原材料の使用に加え、EU圏の地域別サプライチェーン開発にも注力しています。



慢性疾患を抱える患者は世界中で増加傾向

社会的行動の変化と人口の高齢化が、医療負担の増加につながっています。


また、新興国では急激な人口増加の影響もあり、WHOでは、非伝染性慢性疾患による年間死亡者数を約4,100万人と推定しており(1)、これは実に全世界の死亡者数の71%に相当し(2)、2030年までに慢性疾患の有病率は49%に達すると予想されています。(3)


他方、2021年に米国FDAが承認した新薬は、後発医薬品やバイオシミラーに対するFDAの承認を除くと、NDAに基づく新分子物質(NME)として36種類、BLAに基づく新治療生物学的製剤として14種類の合計50種類でした(4)


「バイオシミラー」や「バイオロジクス」という言葉には、抗体、治療タンパク質、ペプチドなどの生物由来の様々な物質が含まれており(4-7)、生物由来製剤は、その有効性や選択性の高さから医療現場を徐々に変えていき、その用途は着実に拡大していくと考えられています。

しかし同時に、生物由来製剤はその物理的化学的特性から、投与することが極めて困難な場合があります。


そのため、今日の医薬品開発における技術革新は、薬剤や治療法開発だけでなく、患者を中心とした

DDSの開発にも波及し、投与をより早く、より簡単に、より効率的に行うために重要な役割を担っています。



慢性疾患治療における「自己投与」について

慢性疾患治療では自己投与の重要性が高まっています。


非経口薬の市場シェアは、2019年の約6,000億米ドルから、

2026年には2倍の約1兆2,000億米ドルに拡大すると予想されており、(8,9,10)この成果的成長の背景には、予防医学の重要性の高まり、高齢化、在宅ケアへのシフトが主に挙げられます。(7,8,9)


現在、生物学的製剤の大部分は静脈内および皮下投与されています。これは、すでに承認・販売されているものと開発中のものの両方に当てはまりますが、現在は皮下自己投与が普及しはじめ、静脈内投与に代わる、貴重な選択肢となっています。

皮下自己投与の内、ボーラス注射は41%のシェアを持ち、すでに開発現場では優先される投与経路となっています(6,7,11,12)


この成長の主な理由は皮下投与の安全性と有効性にあり、患者と医療従事者の双方から非常に高く評価されています。 短いトレーニングの後、患者や医療従事者は、自宅や訪問先で非常に迅速に薬剤を投与することができ、これはQOL向上、医療機関への移動時間の短縮、ひいてはコストや環境への負荷の軽減につながります。

自己投与用の注射器は、慢性疾患の効果的な治療にとって極めて重要なツールに発展してきました。

そして中でもオートインジェクターはは患者やその介護者が簡単に安全に使用できるため、より高度な技術を持つ医療従事者の負担を軽減することができます。(5,13)

救急車での搬送や病院や診療所への通院の回数を大幅に減らすことがで、入院の回数も大幅に減少します(14,15,16)



バリューチェーン全体への対応

長期的な慢性疾患の性質を考慮すると、”患者体験(ぺイシェントエクスペリエンス)”は最も重要です。


ぺイシェントエクスペリエンス全体を考えると、投与のしやすさ、痛みの軽減、コンプライアンス、アドヒアランスの継続的な改善は、その一部でしかありません。

製剤の生産から使用、廃棄までのプロセスにおけるバリューチェーン全体の品質も重要なポイントとなります。 Haselmeier社では、新しいオートインジェクターであるPiccoJectの開発時に、ヘルスケアと製薬の専門家を加え、DDSとコンビネーション製品のクライアントや専門家への複数のインタビューを実施しました。


このインタビューは、DDSの概念的なアイデアから、その設計と製造、パッケージ化されたコンビネーション製品、その供給と使用まで、バリューチェーンを終始一貫して包括的に捉える内容でした。

また、臨床医からのフィードバックや問い合わせ、既存のオートインジェクタのユーザーとの意見交換も行い、満たされていないニーズを抽出し、機能性、利便性、使いやすさを組み合わせた新世代のオートインジェクターを完成させました。

そのためPiccoJectは、使いやすさ、固有の安全性、持続可能性といった特性により、既存製品とはことなる優位性を感じさせます。PiccoJectには、2つのタイプがあり、バリューチェーン全体にわたる豊富なサービス(カスタマイズ、事前・最終組立、包装など)を提供してくれます。

「シンプルであること」による卓越性

PiccoJectの設計の特徴はまさに、「シンプルであること」に集約されています。



PiccoJectは、全部で8つの部品から構成されており、シリンジを除き最適設計された機構は、

5つの射出成型プラスチック部品、2つのスプリング、1つの金属部品で構成されています。

(一般的なオートインジェクターは10部品以上のものが多く、この部品点数はかなり少ない方です)



シリンジは標準的な長さ1 mLおよび2.25 mLのガラス製またはプラスチック製のプレフィルドシリンジに対応し、小さな丸型またはカット型のフランジを備えています。

同じ機構でありながら、適用されるシリンジサイズに合わせた2種類の断面形状があり、独立した使いやすさを成立させているポイントも、このデバイスのユニークな点です。


より良いユーザーエクスペリエンスを提供する

患者が積極的に治療に参加する意思(アドヒアランス)を確保するため、 PiccoJectは、使いやすさを第一に考えつつも、あくまで”シンプルさ”を持たせて設計されています。

使用前に薬剤を確認するための大きな薬剤窓、装置の状態に関する視覚的・聴覚的なフィードバック、注射針の安全確保などがその特徴です。

これらの特徴に加え、小型で、断面が円形ではなくわずかに平らになっており、直感的なフィードバックが得やすくなっているのも面白い点です。


PiccoJectは、わずか2ステップで自己注射できる設計となっています。

患者の不安感・不快感を最小限に抑えるために、ニードルガードは比較的大きな接触面積を確保し、皮膚への圧迫感を軽減されています。

注射の開始と終了時には、クリック音を用いたフィードバックが得られるため、ユーザーは注射が完了するまでデバイスを固定することができます。

ステータスインジケーターは、2値表示で使用状況をよりわかりやすくなっています。



データ駆動型インサイトを実現するコネクティビティ

セルフケア、治療のパーソナライズ、治療結果の予測を着実に推進するスマート医療機器は、医療の質を新たなレベルへと引き上げると私たちは考えます。

デジタル・ヘルスケアにおけるコネクテッド・ドラック・デリバリー・システムは、その価値を証明し始めています。

例えば、ヘルスケア業界の大手企業が実施した臨床試験では、コネクテッド・ドラック・デリバリー・デバイスを使って75人の糖尿病患者のアドヒアランスをモニターした例もあります(17)


現在Haselmeier社では、 PiccoJectを既存のデジタルエコシステムに統合し、注射関連のデータを自動的に収集できるようにするためのオプションを開発しています。


ここでも指針となる原理原則は「シンプルさ」です。


同社はすでに、D-FlexエコシステムとD-Flexログブック技術と呼ばれる自社製品で培った経験を有しており、臨床評価のためにクラウドに送信する仕組みを用意しています。



Haselmeier社のサステナビリティへの取り組み

最後にHaselmeier社でのサステナビリティの取り組みを紹介します。


使い捨てDDSは、再利用可能な製品よりも使いやすさや償還の面で、依然として優位性があります。

また、汚染や衛生上の問題から、ヘルスケア製品の再利用には課題が多くることから、市場ニーズは、今後しばらくの間、引き続き使い捨て製品が主流になると考えられます。


この影響を相殺するために、Haselmeier社では以下の具体的な方法で持続性を可能とした製品開発を行っています。


  • 部品の肉厚を最適化し、余分な材料を最小限に抑える

  • ポリアミド6のような炭素含有量の高い材料の使用を避け。

  • サプライヤーが持続可能な原材料を提供している場合、環境に優しい材料を選択する

  • 組み立ての際、個々の部品にトレーを使用することを最小限にする

  • ポストコンシューマー材料からトレイやカートンを製造する


この他に、同社では日々のビジネスと企業戦略の基盤にサステナビリティが組み込まれています。(18)



Haselmeier社は、親会社であるMedmix社が追求するグローバルな持続可能性戦略に沿って、グローバルな二酸化炭素排出量の削減、廃棄物埋立量の削減、水使用管理システムの改善、事業所全体での低炭素電力の導入を目指し、実施しています。


現在医療業界でも二酸化炭素排出量削減のための大きな取り組みが進められていますが(19)、Haselmeier社では、コンセプトデザイン、製造、包装からサプライチェーンに至るまで、実施の対象としています。

成果の一例として、チェコ共和国にあるHaselmeier s.r.oの製造拠点は、世界で最も信頼されているビジネスサステナビリティ評価機関の一つであるEcoVadisから、銀賞を受賞しています。


今回のPiccoJectの基本的な設計コンセプトも、そういったサステナビリティの要件に基づいてつくられています。

部品材料は、バイオサーキットの主要原料に基づくプラスチック使用するなど、環境への影響を最小限に抑えた素材を積極的に選んでいます。

また、輸送経路を短くするという親会社Medmix社のアプローチに基づき、製造・物流施設はお客様やパートナーの拠点がある地域で決定します。 今回ご紹介しましたHaselmeier社のPIccoJect以外にも、zenius社ではオートインジェクターに限らず、数多くの欧州のユニークなDDSデバイスを数多く取り扱い、デバイスのデューデリジェンス、国内用のモディファイを含めた、ローカライズの支援を行っておりますので、是非お気軽にお問い合わせください。



 

REFERENCES

1. “Noncommunicable diseases”. Fact Sheet, WHO, Apr 13, 2021.

2. “Noncommunicable diseases”. Health Topics, WHO, Feb 3, 2022.

3. “Percentage of the Population With Chronic Diseases, 1995-2030”. The Silver Book, May 2009.

4. “Advancing Health Through Innovation: New Drug Therapy Approvals 2020”. US FDA, Jan 2021.

5. De la Torre BG, Albericio F, “The pharmaceutical industry in 2018. An analysis of FDA drug approvals from the perspective of molecules”. Molecules,2019, Vol 24(4), p 809.

6. Ganesh AN et al, “Patient-centric design for peptide delivery: Trends in routes of administration and advancement in drug delivery technologies”. Med Drug Discov, Mar 2021, Article 100079.

7. Jonaitis L et al, “Intravenous versus subcutaneous delivery of biotherapeutics in IBD: an expert’s and patient’s perspective”. BMC Proc 15, 2021, Article 25.

8. “Industry Roundtable: Parenteral Drug Manufacturing”. DCAT Value Chain Insights, Feb 10, 2021.

9. “World Preview 2020, Outlook to 2026”. EvaluatePharma, Jul 2020.

10. “The Prospects for Biosimilars of Orphan Drugs in Europe – Current Landscape and Challenges Ahead”. IQVIA, Institute Report, Jul 21, 2020.

11. De Cock E et al, “A time and motion study of subcutaneous versus intravenous Trastuzumab in patients with HER2-positive early breast cancer”. Cancer Med, 2016, Vol 5(3), pp 389–387.

12. Bittner B, Richter W, Schmidt J, “Subcutaneous Administration of Biotherapeutics; an overview of current challenges and opportunities”. BioDrugs, 2018, Vol 32(5), pp 425–440.

13. “Injectables: The New Oral?”. Contract Pharma, May 4, 2016.

14. “Health care’s response to climate change: a carbon footprint assessment of the NHS in England”. Lancet Planet Health, 2021, Vol 5(2), pp e84–e92.

15. Waller C et al, “Intravenous and subcutaneous formulations of trastuzumab Biosimilars implication for clinical practice”. Br J Cancer, 2021, Vol124(8), pp 1346–1352.

16. De Cock E et al, “Time savings with Rituximab subcutaneous injection versus Rituximab intravenous infusion: A time and motion study in eight countries”. PLoS One, 2016, Vol 11(6), e0157957.

17. “Insulin Dosing Practices in Persons With Diabetes on Multiple Daily Injections”. ClinicalTrials.gov, Aug 14, 2018.

18. “Sustainability Review”. Annual Report, medmix, 2021.

19. “Big Pharma emits more greenhouse gases than the automotive industry”. Brighter World, May 28, 2019.


免責事項 ◯執筆当時、記載されている製品は医療機器ではありません。 ◯記載されている製品の機能、性能、仕様などは、予告なく変更する場合があります。

◯本資料に掲載されている情報は、医療機器メーカおよび製薬メーカ向けに執筆したものです。

◯記載されている情報は、適用される医療機器の規制に抵触する方法での使用を促進するものではありません。  また、患者を対象としたものでも、専門家の医療アドバイスに取って代わるものでもありません。